#10 熱海への旅

新しい本/ちいさなお話会/熱海への旅
柊有花 2024.06.05
誰でも

こんにちは。こんばんは。イラストレーターで詩人の柊有花です。

もうすぐ梅雨入り、といった雰囲気ですが、みなさま体調などはお変わりないでしょうか。

わたしはもうすぐ東京での個展を控えていて、日々制作に励んでいます。
毎日考えることと描くこととをみっちりやっていたらすこしつかれたので、気分転換にこうして手紙を書くことにしました。

前回の手紙で、個展と新しい本についてお話ししたのですが、その進捗を。

『月はわたしたちを照らしている』というタイトルの詩画集が、完成しました。

そして、それにあわせてひとつ新しいおしらせを。

個展開催と本の刊行にあわせて、個展の会場であるひるねこBOOKS店主の小張さんと、本を作ること、本を届けることについて、お話しする機会を作ることになりました。10名様とわたしたち2人の、ささやかな会です。異なる立場で働くふたりのあいだで言葉を交わすことを通じて、わたし自身はもちろん、みなさまにとってわずかでも新鮮な発見があったらいいなと思っています。

もしご興味がありましたらぜひ遊びにいらしてください。

熱海への旅

つい何日か前に、静岡の熱海へ海を見に行きました。
大雨が降った次の日のことで、向かっている途中はまだすこし雨が降っていたのですが、到着したころにはちょうど雨もやみ、海を眺めることができました。たくさんのひとが砂浜で遊んでいてにぎやかで、でも海は静かで、とても気持ちのよい時間を過ごせました。夕方、日が暮れかけたころにだんだん雨が降り始めたので、近くのお店でしばらく雨宿りをすることにしました。

そのあと、雨のときの海を見ておきたいなあと思いたち、もう一度戻ってしばらく海を眺めました。さっきまでにぎやかだった浜辺にはわたしと、もうひとりだけがいて、海を見ていました。

そのときに作った詩です。

***

波の輪郭にそって歩く
胸にいだく白い紙のなかに
色とりどりの花々

雨に打たれてすこしずつ
濡れていくのをかまわず
しずかにまっすぐに
砂の上を歩いている

波の形をたしかめながら
海の輪郭にそって歩く
波はあなたのつめたい肌
シャツは雨で
すこしずつ重たくなって

海に去ったひとは
雨の日の暮れにあらわれる
空は静かに泣いていて
誰もいなくなった海に
その雫は落ちてゆき

波となって
生きるわたしへ
寄せてくる

できることならば
悲しみなど
喜びなど
味わわずにすめばいいのに
ともにあった日々を
忘れてしまえればいいのに

海は黙っていて

けぶっている山のふもと
宿にあかりがともる
海へ引き返してみたら

そこにはもう誰もいなかった

***

言葉を書く、言葉を届ける場所がほしい、と切に思います。

また書きます。

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