#06 夏への旅
こんにちは。こんばんは。イラストレーターで詩人の柊有花です。
個展が終わってからひと月ほどご無沙汰していましたが、みなさまお元気でしょうか。
わたしは昨日一日、友人が主催するイベントに参加して、対面で絵を描くワークショップと物販をしていました。一日楽しく、でも緊張して過ごしていたので今日は代わりにのんびり過ごしています。昨日も今日も、本当に暑い一日でした。
昨日のイベントでは他の出店者さんのファンの方も多くいらしていて、特に若い女性の方がたくさんいらしたように思います。わたしの個展にいらっしゃる方とはまた違う雰囲気をまとう方がたくさん行き交うのを眺め、また、ワークショップで絵を描いて過ごしたあと、電車のなかでいろんなことを考えました。
まず、自分の作るものが自分が思っているよりも誰かの支えになっていることがあるんだということ。Podcastを何度も聞いてくださっているという方、お迎えくださった絵の写真を見せて「心が落ち着いて、元気になるんです」とお話ししてくださる方、わたしが絵を描いているあいだ、静かに泣いていらっしゃる方、仕事を休んだり早退したりしてイベントを楽しみにしてくださっていた方……お話をしながらこちらが励まされるできごとがたくさんありました。
自分が歳をとっていくことをよく考えます。自分の名前を使って、まあ、ペンネームではありますが、仕事をするようになってからはよりいっそう時間が流れていくこと、環境が変化していくことに対して敏感になったように思います。
昨日のイベントでは、わたしの絵や雑貨に興味をひかれない方との出会いがたくさんありました。個展へはまずわたしの絵に対する興味があって来てくださる方がとても多いので、どこかそれが自然なことのように思っていたけれど、それはやっぱり特別な場だからだったんだなと気がつきました。
世界は広く、多様である。小さな部屋から一歩外へ出ればそんなかんたんな、けれど忘れてしまいがちなことに気がつきます。自分の傲慢さも、プライドもちぎった紙のようにはらはら散っていきます。世界はつねにうねり、変化していく、そのことを肌で感じた一日でした。
と、同時にね。
身体を持って生きるというのはやはりその生きる時代とは分かち難いということを思いました。まあ、そのことは面倒にも思いますが、新しい世代のひとたちもその時代を背負って歳を重ねていくのだし、生きる以上避けられないこと。人間は自由なんかじゃなくて。生まれ落ちた時代を生きる、背負わされたその重みを感じています。
そうやって生きるなかで、自分の作るものや好きなもの、もちろん自分自身も、自分にとって変わることなく大切なものです。わたしが生まれた昭和はいまやレトロの代替語のようになっていますが、昭和に生まれ、令和という時代を生きている自分はいわばその時代を代表する人間だということからは逃れられず、また同時にそのことを恥じる必要もないことなのだと思います。
生き続けていたらかならず「レトロ」になっていくように見えるけれど、新しいか古いかは本質的な問題ではなく、ましてや呪いでもなく、ただ、うねりの"ある地点"において生きる/生きた、それだけのことなのだと思います。
まあそうは言いつつ、世間の空気に弱いわたしです。
どんな考えを持っていたって世界の「最新」の目にさらされることに変わりはないのだから。くそったれ!と思いつつも、自分を責めることなくものを作れたらいいと思いますし、時代と格闘する自分を見てくださるひとはきっとどこかにいるのだと思います。昨日はそういうことを考えられ時間だったなあと思います。
自分を灯にしないでいったい何を灯にするというんでしょう、時代やトレンドやひとの心はわたしと関係なく進んでいくのだから、レペゼン時代、いや、レペゼン自分として楽しく生きていけたらいいなあと思っています。
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夏への旅
今年はじめて、ひぐらしが鳴くのを聞きました。
桜の花のようにあっという間に散ってしまう春と違って、夏はときどき逃れられない悪魔のように思えます。植物は梅雨の雨で加速度的にその背丈を伸ばしてこちらを圧倒しますし、庭のあちこちで忙しく行き来する虫たちも数えきれなくなって久しいです。茂った葉を持ち上げるとそこで暮らしていた虫たちが飛び立っていって「わ、誰だよ!」と思うこともしばしば。せめて風通しをよくしようと雑草を抜き、植物を間引いてもすぐ茂ってきてしまいます。湿度があり涼しい日陰はきっと過ごしやすいのだろうと想像します。
春から梅雨のはじめまでなわばりを主張してさえずっていた鳥たちの声はだんだん少なくなり、いよいよ夏、という感じです。じりじりと進む夏への旅は憂鬱な気持ちと、すべてを打ち破ってしまうようなつよさへの憧れ、涼しく明るい夜を恋しく思う気持ちがいつもせめぎあっています。
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